胃・十二指腸潰瘍

【病態】

胃拡大
  • 胃は食物を消化するために内部は強い酸性に保たれています。普通は、粘液が胃壁全体を覆って、胃酸から胃を守っています。健康な胃では、胃酸と粘液のバランスがうまくとれています。ところが、胃酸と粘液との不均衡が生じると、胃酸によって胃壁がおかされてしまいます。初めは、粘膜のごく表面がただれる程度ですが、進行すると粘膜さらに筋層が侵されます。ときには胃壁に穴があくこともあります。十二指腸壁も胃壁と似た構造で、十二指腸潰瘍もやはり胃酸と粘液との不均衡が生じて起こります。患者数は胃潰瘍が十二指腸潰瘍より多いのですが、最近は都市部を中心に十二指腸潰瘍が増加しており、食生活の欧米化が原だと考えられています。年齢別には、胃潰瘍は40〜50歳代、十二指腸潰瘍は30〜40歳代に多く見られ、いずれも女性より男性に多く発生しています。


【原因】

●胃潰瘍
  • 粘膜を覆う粘液、粘膜自体の抵抗力、粘膜内の血液循環などは、粘膜を保護する防御因子です。胃酸やペプシンなどの消化液、喫煙、アルコール、ヘリコバクター・ピロリ菌感染などは粘膜を傷つける攻撃因子です。防御因子と攻撃因子のバランスを調節しているのが自律神経です。心身がいろいろなストレスにさらされると、自律神経も影響を受け、防御因子の働きが弱くなり、結果的に攻撃因子の力が強まって潰瘍ができます。
                    ストレス1

●十二指腸潰瘍 
  • 十二指腸では、内容物が胃から送られてくると、すい臓や胆のうからアルカリ性の液が分泌されます。このため強い酸性状態は緩和されることになりますが、なお酸性の状態にあり、ここでも防御機構が働いて攻撃と防御の均衡が保たれています。十二指腸で潰瘍が発生するのは、胃とは逆に、攻撃する側である十二指腸の中の酸性が強くなった場合が多いと考えられています。胃から流れてくる胃酸にさらされやすいため、胃に近い十二指腸球部におこりやすいです。
    胃や十二指腸の粘膜における攻撃と防御の均衡が崩れる原因には、さまざまなものがあります。とくに、胃潰瘍は俗に「脳の病気」ともいわれ、ストレスとの関係が深い病気です。
    過労、睡眠不足、不規則な生活、精神的ストレス(イライラなど)、性格(几帳面、勤勉)、けが・やけど、手術、体質、栄養不良、脳、肺、肝臓など慢性の病気、胃炎、解熱鎮痛薬、副腎皮質ホルモン製剤等の薬剤、刺激のある食事、大量の飲酒、喫煙、ヘリコバクター・ピロリ菌感染


【症状】

●腹痛 
腹痛
  • 腹痛は胃・十二指腸潰瘍の最も特徴的な症状で、胃潰瘍ではみぞおちのあたり、十二指腸潰瘍では右上腹部や背中が痛むこともあります。空腹時に痛みが多くみられ、食べて胃液が薄まると、痛みもおさまることが多いです。痛み方には圧迫感や鈍痛、あるいは疼痛(焼けるような、刺すような)とさまざまですが、痛みの程度と潰瘍の程度とは必ずしも一致しません。人によっては症状に気づかず、潰瘍が進んで胃や十二指腸に穴が空いて、はじめて激痛に襲われて病気に気づく場合もあります。


●胸やけ 
  • 胸やけは胃液が食道に逆流したために起こる症状です。


●出血(吐血、下血)
  • 潰瘍の中には、出血するものもあります。出血量が多いと、悪心とともに黒褐色の血を吐いたり(吐血)、黒いタール様の便が出たりします(下血、タール便)。


●悪心・嘔吐
  • 胃の出口(幽門部)や十二指腸の潰瘍を何回も繰り返すうちに、胃粘膜がひきつれて狭くなりことがあります(幽門狭窄)。すると、食べ物が胃液とともに胃にたまり、悪心、嘔吐を起こします。


【検査】

●X線検査(胃透視)
胃レントゲン
  • 胃のX線検査では、粘膜表面の微細な凸凹、ひだ、ひきつれなどから、病気の有無、場所、大きさ、深さがわかります。最近は内視鏡検査が普及し、X線検査は健康診断などの総合検診で使われことが多いようです。しかし、内視鏡と異なり、胃全体を見ることができるのが長所です。


●内視鏡検査(胃カメラ)
  • 内視鏡検査では粘膜の状態(色、出血の有無など)を直接観察することで、潰瘍の性質、治り具合などを知ることができます。また、検査中に粘膜表面に色素を散布することで、より細かい部分を観察でき、組織の一部をとり、顕微鏡下で悪性腫瘍の有無等を確認できます(生検)。他に、ビデオ撮影のできる電子内視鏡、超音波を使う超音波内視鏡もあります。最近は鼻から挿入する細い内視鏡も普及するようになり、かなり楽に検査できるようになりました。経鼻内視鏡は大きな処置はできませんが、スクリーニングとして定期的にチェックするのに適しています。


【治療】

  • 酸を中和する「制酸剤」がなかった時代、安静入院と食事療法が基本でした。ところが、酸分泌を抑える薬として昭和50年代後半にH2ブロッカーが、さらに平成になりプロトンポンプ阻害薬が登場し、潰瘍はごく一部の症例を除いて、治すことが容易な病気になりました。薬を飲み始めると、すぐに痛みなどの症状は改善しますが、潰瘍が治ったわけではありません。プロトンポンプ阻害薬は、胃潰瘍で8週間、十二指腸潰瘍は6週間で投与を終了し、これを「初期治療」と呼びます。ここで服薬を止めると再発する可能性が高いので、予防のために「維持療法」を行います。この維持療法に大きく分けて2種類の薬剤が使用されます。多くの例では、攻撃因子を抑制する薬と、防御因子を強化する薬を組み合わせて服用します。攻撃因子を抑制する薬は、制酸剤、酸中和薬です。防御因子を強化する薬は、粘膜抵抗強化薬、粘液産生分泌促進薬、胃粘膜微小循環改善薬などです。一般的に、酸分泌抑制薬のH2ブロッカーを中心として、他の薬剤を組み合わせて服用します。H2ブロッカーは、潰瘍が治ってきたら少しずつ服用量を減らしていきます。この「維持療法」が意外と難しく、長期間きちんと服用していても、止めてしまうとまた再発することも多いです。
                        薬カプセル

●ピロリ菌除菌 
  • ピロリ菌の感染の多くは子供の頃に、汚染された食物や水、あるいは糞便から感染すると考えられています。このため、衛生状態の悪い地域にピロリ菌感染者が多くなります。欧米では30〜40%といわれていますが、日本は感染率が高く、約半数の人が感染しているという報告もあります。感染率は年代によって差があり、20歳以下では20%未満なのに対し、50歳以上になると感染の割合は70%であったという報告があります。ピロリ菌が胃に入ると、アンモニアを生成します。これが細胞毒としてはたらき、胃の粘膜細胞が障害を受けます。胃癌患者でピロリ菌の感染率が高いという報告があり、ピロリ菌の慢性感染が胃癌発症に深く関与している可能性が注目されています。除菌治療として、プロトンポンプ阻害薬と、2種類の抗菌薬を1週間(1日2回)服用する方法が最も望ましいとされています。この方法での除菌率は約85%と報告されています。抗菌薬により、軟便や下痢、味覚異常などの副作用が生じる可能性があります。


●安静療法
  • まず、心身の安静が一番大切です。仕事のストレスに気づかない人もいますが、ストレスを減らすことが潰瘍の治りを助けることになります。タバコは攻撃因子ですから、やめる必要があります。


●食事療法 
  • 胃の運動、胃液の分泌を促進しないように、香辛料、コーヒー、炭酸飲料、熱いもの、冷たいもの、酸味の強いもの、多量の肉類、高脂肪食を避けることが大切です。胃液の中和作用が強い豆腐、治癒を助けるタンパクを含む白身の魚などはお勧めです。牛乳は胃の粘膜を保護するので特にお勧めです。大量の飲酒は、胃に負担をかけます。食事を抜かず、規則正しく食事をとることが大切です。1回の量を少なくして、回数を増やすのもよい方法です。


●手術療法 
  • 薬物治療の進歩により、手術は随分少なくなりました。手術は内視鏡を使った治療では止血できない出血、穿孔性潰瘍、幽門狭窄に対して行われます。